2013年1月 京都ライトハウス発行 音声雑誌「声の京都」
~インタビュー 京都の聞き書き絵本やさん 古橋悦子さんにきく~    (一部、短縮・編集あり)

『今日は、聞き書きによるオリジナル絵本、自分史作りをしておられる、古橋 悦子さんに、中川さん 森さん 吉岡さん そして私、氷室がお話を伺いました。どうぞお聞き下さい。』

Q:この活動をされるきっかけを教えて下さい
A:もともと福祉の仕事をしていました。はじめは、視覚障がい者の方の施設、その後は老人施設で相談員やケアマネージャーをしたりして、人の話を聞くことが多かったのです。業務に追われて、なかなかお一人お一人とゆっくり接することができないのですが、本当にいいお話をして下さる方が多く、それを残せたらいいなと思うになって。ただ、それがどういう風に仕事につながるかというのがなかなか難しかったのですが。12、3年前に、そういうことをやりたいなと、ふと思ったのがきっかけです。

Q:自分史と言うと、年表を追っていくようなイメージだったのですが、違うのですね。
A:私が作る本は、千差万別なんです。ここに、いろいろ持ってきました。これは60歳代の息子さんが、90歳代のお母さんのことを本にしてほしい、と。絵本ではないのですが、自分史という感じでもないでしょう。だいたい私はこれくらいの薄いものを作っています。あんまり立派な本は、いただいても開かなかったりするでしょう。読みやすいものを、と思っています。この人は、写真をお持ちだったので、たくさん入れました。少し認知症のある方でしたが、昔の話はよくして下さいました。奄美大島出身の方で、とても人のつながりが濃く、親戚づきあいを中心に人の交流の幅が広く、たくさんの方々に差し上げたいとのことでした。
この絵本も、60歳代の女性からのご依頼で、90歳代のお母様の本を作ってほしいということでした。この方も認知症のある方だったのですが、お母様が老人ホームに入所され、そこの職員さんたちに、「母のことを知ってほしい」というご希望でした。介護のお仕事の方は忙しいから、分厚い自分史よりも、読みやすく簡単な絵本にしてほしいと。たくさん作り、読んでもらいました。
自分史らしいものもあります。これは昭和2年生まれの男性で、ご自身のご依頼で作りました。海軍で飛行機に乗られていた方で、すごく面白いお話でした。
これも、60歳代の女性から、90歳前後のご両親の本を作ってほしいというご依頼でした。4コママンガを軸にしています。最初は、ご両親の仲があまり良くないと聞いていたのですが、何回もお話を伺ううちに、仲が悪く見えても、それがいいバランスになっているし、そこにユーモアがあって素敵なのだと思えて。お母さんがお父さんのことでご不満を言われるのですが、「これって実はのろけじゃないですか?」ということになって。「いっそのこと、そこを楽しくマンガにしたらいいかもしれませんね」と、途中で方向転換しました。
これは、ちょっと特殊です。「孫についての絵本を」というご依頼でした。重度障がいのお孫さんのことで、「自分も何か手伝いたい、家事もいいけれど、そうじゃなくて、啓発に使えるような本を作って、孫の将来に役立てたい」というご希望だったのです。前半部分が絵本なのですが、その絵本の文章は先に仕上がっていて、「絵だけを描いてほしい」というご依頼でした。でも、難しい後書きの文章を「子どもでも分かるくらい、簡単にしたら?」と提案し、いろいろと練って。マンガをいれたり、クイズをいれたりしながら作りました。障がいについて楽しく理解できるようにしています。
それからこれは、盲導犬の絵本です。主人公の女性は、経験の豊かな盲導犬のユーザーで、最初の盲導犬を、アメリカまで行って歩行訓練を受け、連れて帰った方なんです。絵本にする時に面白かったのは、盲導犬の顔のイメージを、ご本人に尋ねたことです。犬の写真を見て参考にするのではなく、ご本人の頭にあるイメージを教えていただき、それを絵にしました。今は天国にいるお世話になった何頭もの犬たちが、「自分たちのお母さん(盲導犬ユーザーのこと)は今どうしているかな?」と、集まってお茶会をして、語り合ったら面白いね...という内容の絵本なんです。

Q:本当に自分史というものもあるし、絵本でストーリー性のあるもの、マンガ、インタビュー形式、いろいろあるのですね。だいたいどれも、12~20ページ弱くらいで、読みやすいですね。
A:そうですね。私自身が、長いものを読むのはしんどいので(笑)! 大きな本を出版される人のお手伝いも、何度かはしているのですが。私自身が作るときは、こういう薄いものになってしまうようです。その方が気楽に手にとってもらえるかな、と思っています。

Q:絵がとってもシンプルでかわいらしくて、色もきれいです。ご主人が描かれているのですね。・・・ところで、聞き書きのインタビューで大切にされていることは何ですか?
A:「自分史を作る」というと、生まれた時からのことを、最初から順番に話さなくてはと思って、しんどくなるでしょう。私は、とにかく一番芯になることから聞くようにしています。「何を大切に生きてこられましたか」「人生観を教えて下さい」というように。そこをまず語っていただくと、自然に、それにまつわる大切なことがどんどん出てくるのです。だから、話す順番はどうでもいいのです。それを整理するのは私の仕事ですから。

Q:古橋さんは、聞き役に徹しておられて、聞き上手なんだと思います。こつはありますか?
A:やっぱり、お話に没頭することです。例えば、満州におられた方の話を聞くとき、満州なんて、想像もできないでしょう。向こうは光景を思い出しながら話してくれるのですが、なかなかそこに没頭できなくて。なんとか想像するために、季節を尋ねてみるんです。すると「雪がふっていたから冬です」と。「履物は何ですか? 寒かったでしょう」ときくと「そういえば、下駄だけれど、カバーがあった」とか。だんだん話もリアルになってきて。聞かなかったら、そこまでは話をされないのですが、イラストにするためにも、当時の服装など、尋ねておかなくてはならないので、細かく聞くと、そこを糸口に、思わぬところからまたお話が発展することもあります。そうやって、自分をその場に持っていく、その世界にどっぷりタイムトリップすることを心がけていますね。

Q:こだわっておられることは、ありますか?
A:10年以上、とにかく経験を積むために、最初は、こちらから頼んで「聞き取りさせてください」という感じで、活動してきました。その後ようやく起業しました。過程で、「この活動は、もしかしたらボランティアでやることなのかもしれない」とも思いました。でも、ボランティアだと、お互いに甘えのようなものが出るでしょう。こちらは「やってあげている」、あちらは「やってもらっている」と。「本当はこうしてほしいけれど、やってもらっているのだから無理はいえない」とか。そういうのではなく、「これだったらお金を払ってでもやってほしい」と思われるよう、責任を持ってやりたいと思ったのです。だから「仕事として」やることにこだわっていて、自分の中では、職人にあこがれています

Q:視覚障がいの方でも、対応していただけるのでしょうか?
A:自分自身が、視覚障がい者の方のための施設にいたこともあるので、近いと思っています。本作りも、例えば弱視の方のために、見えやすいコントラストで作るとか、あるいは音声で作るとか、そういうことも対応したいと思っています。

『今日はありがとうございました。
いかがでしたか、やさしくあたたかい古橋悦子さんのお話をうかがっていて、ひだまりにいるようなぬくもりを感じました。みなさんは、どう思われましたか? 担当は氷室美香でした。』